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鳥籠の空模様

『同じ空は一つとしてなく、同じ空は二度と眺めることは叶わない』……いつか、どこかで、誰かが僕にそう教えてくれた。毎日、一秒ごとに変わりゆくこの空模様のように、僕も変わりゆく。僕は、いつか、本当の空と向き合えるようになりたい…… そんな僕の空模様を映しつつ、『小説家になろう』という大手サイトにて小説を書かせていただいている灯月公夜の日々の空模様をここに記していきます……
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2009/04/29
23:57
光太朗さまに捧ぐ 「シャルロット=フォームスン物語」SS


光太朗さまお待たせしましたーーーー!!


ということで、やっとこさ前編という名のプロローグが完成いたしました!(お、おせぇ……

ほんとに、長い間お待たせしまして申し訳ありませんでした;

しかも、まだ前編ということはしばらく続くという……(視線を逸らす

とにかくもっとできるだけ早く終わらせるよう頑張ります申し訳ありません!!

このままじゃ、シャル祭り終了まで間に合いませんが、きっと完結まで頑張りますです(敬礼


という訳で、長々とした前書きはこれまでとして、続きにて載せますので、どうぞよろしくお願いいたします。



◇◇◇◇◇

この一輪のアヤメを君に……



前編(1)「雨宿りの占い師」


 いつもとあまり変わらない午前。いつもとあまり変わらないロンドド郊外の通り。いつもとあまり変わらない、そこを行き交う人々と町の雰囲気。しかし、今日は珍しくとても小さな、微々たる変化があった。
「ふむ」
 道のほぼ真ん中を悠然とした面持ちで歩く青年が一人。緑を基調としたチェック柄のスーツに身を包み、柔らかそうな金色に近い茶色の髪が揺れている。彼の碧色の瞳からは、非常に強い自信があふれ出ていた。その足取りはとても優雅で、両手で紙袋を持って行く姿でさえとても絵になる。中には、彼とすれ違った人が後ろを振り返る姿も少なからず見受けられるほどだ。――――彼は類い稀なる美少年だった。
 そんな好奇の視線を浴びながらも、しかし本人は全く気づいていない。何せ彼――自称名探偵シャルロット=フォームスンには、彼の優秀な助手から預かった大事な使命があったからだ。いや、言いかえれば自分のためでもある。この重い重い荷物を痺れ出した両手で抱えて、しかも外を一人で歩いているのもそのためだ。
 ――そう彼はこの日、外に一人買い物に出ていたのだ。
 ふとシャルロットは、出かけ間際のあの優秀な助手――エリスン=ジョッシュの顔を思い出した。あの驚愕しきった顔。まるで、何か彼女の思考を上回る出来事にでも遭遇したような顔だった。目を大きく見開いて、何か物言いたげに口をパクパクしていたのには、思わず笑いを堪え切れなかった。しかし、それにしてもあまりにも失礼である。まあ、その程度で怒るような底の浅い男ではないが。
 だが、思い返せば自分を少々おかしかったのかもしれない。魔がさしたともいえる。いつもならあの事務所の椅子が、何よりも代えがたい憩いの場だというのに、今日はなぜか思わず外へ出てしまった。強いて言えば、そう、何かが自分を呼んだのだ。たとえば、この名探偵でなければ解決できないような事件か何かが。
 いい加減腕がしびれてきたので、およそ歩きだして五分おきにしている休憩をシャルロットは取ることにした。もちろん、本人はそのハイスピードは当然の結果だと思っている。何しろこの買い物袋が重たいのだ。
『そうだ、良いことを思いついたぞ。外へ行くついでにエリスンパイの材料でも買ってこよう。君は最近何かと作ってくれないからね。エリスン君、何か紙にでも材料を書いてくれたまえ』
 出かけ前に言った一言。これにエリスンは放心しきった状態のままふらふらと紙に材料を記していた。
 しかし、とシャルロットは思う。
 どうやらエリスン君はエリスンパイの材料の他の材料も一緒に書き加えていたのではないか。こうも重いのだからまず間違いあるまい――と。
「しかし、そのようなことで怒る愚かな私ではないのだよ。こんなにも懐の広い私に感謝してくれたまえ、エリスン君。はっはっはっ!」
 人目をはばからずシャルロットは高らかに笑った。うち、半分はカラ元気だったが。
 もちろん、シャルロットひとりがそううなずいているだけで、実際は違う。エリスンは自身が作るアップルパイの材料しかその紙には記していない。買い物袋もある意味軽い。どれもこれもシャルロットの普段の生活の賜物だろう。いろいろな意味で。
「さて、そろそろ行くか」
 しばしの休憩ののち、シャルロットは買い物袋を両手で抱え上げる。いつもならどこぞのカフェテリアにでも入ってお茶をするところだが、あいにく手持ちのお金はもうない。買い物の代金できれいさっぱり、というか寸分たがわずエリスンから預かった手持ちは使い果たしていた。これでは馬車に乗って帰ることすらできない。さすがはエリスン。抜け目ない。
 とりあえず帰れば休める。これだけが今のシャルロットの救いだった。それとついでに、帰ったら食べれるだろうエリスンパイ。それだけを考えて、シャルロットは再び歩きだした。
「おや?」
 しかし、歩き出した直後、何か冷たいものがシャルロットの頬へと当たる。それはやがて勢いを増し、激しく空から降ってきた。
 雨だ。
 空を見上げると、いつの間にか厚い雲で覆われていた。先ほどまで晴れていたのだが、いつの間に曇ったのだろう。
「はっはっはっ!」
 突然の雨に、シャルロットはとりあえず笑ってみた。完全にカラ元気だ。
「はっはっはっ!」
 ついでにもう一度高笑いをしてみた。しかし、現状は何も変わらない。当たり前だ。
 仕方がないので、雨宿りをできる場所を探し、歩き始めた。長時間の重労働に加え、その一原因でもあるこの荷物を持って走るなんてとんでもない。
 シャルロットはあたりを見回した。
 こういう時だからこそ冷静さにかけてはならない。焦らず騒がず、あたりをよく観察し、答えを導き出す。これが名探偵の常識だ。
 視線の先にちょうど雨宿り出来そうな、今はもう営業していないだろう店のテントが目に入った。
「ふむ」
 満足そうにうなづくと、シャルロットはそこへ向かって歩き始めた。雨はまだ降り続いていた。

 雨宿り出来る場所へ着くと、体はもうびしょびしょだった。水分をたくさん含んだ服が、ぺたぺたとまとわりつきかなり気持ち悪い。だが、仕方あるまい。いかに名探偵とはいえ、天候までは知りようがないのだから。
 あたりにはもう人は一人もいなくなっていた。皆、それぞれ雨宿りにでもいったのだろう。しかし、人っ子一人いないのも何かおかしい。傘をさしている人がいてもおかしくはないはず。
 シャルロットは一瞬そのことに疑問を抱いたが、しかしたまたまだろうとさっさと切り伏せた。
「はっはっはっ!」
 別に大した問題ではない。
 そんな思いも含めて。とりあえずもう一度高笑いしてみた。あたりは異様に静かで、地面を激しく打つ雨音しか聞こえない。
「雨……一向に降り止む兆しがありませんね」
 突然の横からの声にシャルロットははっとする。まったく気がつかなかった。
 シャルロットに話しかけてきたのは、黒いくたびれたマントを着た人物だった。目もと深くまでフードを被っているので、その容姿は確認できない。だが、声色と体格からして男性なのはまず間違いない。パッと見の雰囲気はとても年老いていそうだったが、声が比較的に若々しかったため、実はそうではないのかもしれない。顔がわからないので、なんとも言えないが。フードを目もと深くまで被り、くたびれた黒いマントの男は、一言でいえばまるでどこぞの魔法使いのようだ。
「ふむ。この私が気がつかない内に私のすぐそばにいたとは。君は只者ではないね」
 突然の声にさして動揺もせず、無駄に胸を張りながらシャルロットはその男に言葉を返す。言っている内容が内容のためなんとも残念な感じになっているのだが、シャルロットはまったく気にしていない。というか、気づいていない。
「いえいえ、そんな。わたしはただのしがいない占い師ですよ」
 対して、そのフードを目もと深くまで被り、くたびれた黒いマントの男はそんなシャルロットの言葉にさして気にした様子もなく、平然と答える。初対面のシャルロットとまともに会話できるとは。この男。意外に大物かもれない。
「ところで、あなた様は実に聡明なお方だとお見受けいたしましたが、どのようなことをなされているのです? もしもよろしければ名前など教えていただきたいものですな」
 そう男は変に自信ありげにシャルロットへと問う。大物と思ったのはどうやら間違いだったらしい。やっぱりこの男もシャルロットと同じ人種か、似たような存在のようだ。
 しかし、その男の一言に気分を良くしたのか、シャルロットは高笑いをする。普段、誰からもそのような目で見られていない反動か、ややいつもより上機嫌に見える。
「はっはっはっ! この名探偵シャルロット=フォームスンを一発で見抜くとは、君はなんと目のいいことなのだろう! 素晴らしい! 君の推測の通り、このロンドドにおいて私よりも聡明で最高の頭脳をもった人間はいないのだよ!」
「ほほう!」
 シャルロットの言葉に、フードで顔が見えない男は素直に感心したような声を出す。シャルロットの脳裏には、男がたいそう驚いた顔をしているのが目に浮かんできた。
「それはそれは。わたしは実に運がいい。こういきなり雨に降られて気分が滅入っていましたが、あなた様にお会いできたことでそんな憂鬱な気分が吹き飛んでしまいましたよ! いやー、昔から人を見る目があると我ながら思っておりましたが、まさかこのような場所で発揮るされるとは思いもよりませんでした!」
「はっはっはっは! そうだろうそうだろう。こうして私と出逢えた君は実に運がいい! 何せ私は滅多に外へは出ないからな」
「ほう。それはまた何故で?」
「ちっちっちっ。私ほどの人物になれば毎日しなければならないことが五万とあるのだよ。そのことに誰も気がつかないがな。まあ、天才とはそういうものだ。実に仕方がないことだが、こればっかりはどうにもならないことだからね!」
「左様で御座いますか。いやはや、恐れ入りました。シャルロット=フォームスン殿」
 見事に素晴らしき会話を繰り広げる
ばか二人。もはやフォローの余地がないほど手遅れである。その後、二人は非常に愉快な話にしばらく花を咲かせた。
「――――そこで私は言ってやったのだよ。『三つの面相を持たずとも、一つの面相を貫き通す! これこそが、真の人のありかただといことが、わからないのかね?』とね。そして奴はそんな私の天才ぶりにしっぽを巻いて逃げだしたのだよ。もちろん、宝石は盗まれずに済んだのだ」
「ほう。あの事件の裏にはそんな感動的なドラマが存在していたのですね! ですが、なぜ新聞にはシャルロット=フォームスン殿の活躍ぶりが記載されなかったのです?」
「なに。実に簡単なことだ」
「と言いますと?」
 実に不思議そうに尋ねて来るフードを目もと深くまで被った黒いくたびれたマントの男に、シャルロットは大きく胸を張ってこう答えた。
「世の中、知らぬ方が良いものもあるのだよ」
「成程。多くを語らぬところが、実に奥が深い」
 男は素直に感心しているようだ。
 シャルロットはいつになく饒舌に拍車をかけていた。そのため、いくつか自分自身の首を絞める発言をしていることにももちろん気が付いていない。
 はたして、シャルロットとの会話がここまで成立していた人物が過去に何人いただろう。ツッコミ不在の会話は何とも言い難い。
「いやはや、大変興味深い話をどうも有り難う御座います」
 話に一段落つくと、マントの男は雨を見つめつつそう一息ついた。その頃にはシャルロットの表情がいつになくハツラツとしていた。むしろ清々しい顔つきになっているような気がしてならない。普段誰も話をそこまで聞いてくれていないからだろうか。本当に満足そうだ。
「そうです、シャルロット=フォームスン殿」
 降りしきる雨を、実際見ているのか見ていないのかわからないほど目もと深くまでフードを被った男は、突然そう呟くように言った。今、思いついた。そんなニュアンスが含まれている気がする。
「ふむ。何かね?」
 シャルロットはそれに上機嫌に返す。元気一杯、笑顔一杯だ。
「一つ……お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか? 名探偵であるシャルロット=フォームスン殿の見解を是非ともお伺いしたい」
 相変わらず、黒マントの男はシャルロットと視線を合わせず、ただただ外の雨を眺めている。
「何やら重大な話のようだね。よろしい。話してみたまえ。この名探偵シャルロット=フォームスンに解決できない事件は何一つないのだよ!」
 それにどこから来たのか、無駄に胸を張り自信満々の表情でシャルロットは答えた。ついでに、大船に乗ったつもりで聞いてみたまえ、と相変わらずの高笑いも忘れない。
 男は、乗りかかった船が実は泥船だとは知らずに、ほっ、と息をつくと「有り難う御座います」と呟くようにいった。
「シャルロット=フォームスン殿。あなた様は、『呪い』をお信じになられますか?」
「ふむ」
 男のあまりにも常識はずれな問いに、シャルロットは眉を少しひそめその問いに深く思考を巡らせているようにうなずく。が、その実まったく考えてはいない。
「あれか、きみはカメを見たことがないと言っているのだな」
 とりあえず何か言ってみた。
「それは『呪い』ではなく『鈍い』です」
 男は律義に突っ込んできた。
「では、あれか。敵から身を守る――」
「それは『鎧』です」
「危険が来たことを仲間に知らせる――」
「それは『狼煙』です。どんどん離れていますよ?」
「そうか。では、結婚や出産などとのときに、周りの人が大々的にやる――」
「それは『祝い』です。上手いこといいますね」
「なに、大したことではない。はっはっはっ!」
「意味的にはまったく逆なんですがね。はっはっはっ!」
「……」
「……」
 沈黙。沈黙がむちゃくちゃ痛い。最後は笑って誤魔化してみたが、まったくの無駄だったようだ。男はまったく気にせず、シャルロットへ合わせる。
「ふむ」
 何かを諦めてシャルロットはひとつ頷く。改めて、フードの男を見る。いつの間にか、こちらを見ていた。その目をしっかりと口を開く。
「真面目に言わせてもらうと、この科学万歳の現代において実に『呪い』というのは非現実だと言わざるをえまい。過去にも、呪いというのもを確かに立証した人物もいない……はずだ。お化けなども然り。今のご時世、そんなオカルトチックなものを信じている人間は少ないと思う。よって、私は――」
 いつになく、そして恐ろしく滅多にしか聞けない実にらしいことを発言した。ここにエリスンがいたらまず間違いなく目を点にしていたに違いない。それはまず確定なのだが、ふと言葉を切るとシャルロットは視線を一度バケツをひっくり返したような雨に視線を向ける。その脳裏には白いふわふわした物体が、同じくふわふわと姿を見せていた。白く、とても可愛らしく、愛らしく、そして何よりも不思議でならないマシュマロ。そう、マシュマロ。いや、大福かな?
 ともかく、雨を眺めているシャルロットの脳裏には、そんな大福と盛大に抱き合っている一人の女性がありありと浮かんでいた。世の中は不思議がいっぱいだ。
「――だが、私は完全に信じていないわけではないな。世の中、実に不思議だ。彼だっているのだから、呪いくらいあるだろう。はっはっはっは!」
 ついでに、なければないでつまらんしな、とも加えておく。
「彼?」
「いや、なんでもない。こちらの話だ」
 そんなやり取りをしていると、目もと深くまでフードを被った黒マントの男は、そっとほくそ笑んでいた気がした。だが気がつかずシャルロットは、私は相変わらずの天才ぶりだ、と高笑い。
「実に興味深いお話を有り難う御座います、シャルロット=フォームスン殿。実に名探偵に相応しいお話でした」
「なぁに。これぐらいお安い御用だよ。はっはっはっ!」
 黒マントの男は、そうシャルロットを本気かどうか分かりにくい感じでおだてる。当の本人はまんざらでもない顔で笑っている。
 と、シャルロットは男が何かを差し出しているのに気付き高笑いをやめた。
「ん? これは……」
「ちょっとしたお礼の気持ちです。とあるところで手に入れた調味料みたいなもので、美味しいものはより美味しく、またどんなに不味いものも美味しく生まれ変わる魔法の粉です。もし、よろしければ、どうぞ」
 その手には確かに小さな小瓶があった。意外と若々しいその手に収められているその小瓶は、ラベルも何も貼ってない黒いものだった。
 シャルロットはいかにも怪しい小瓶をとりあえず手に取ってみる。すぐそばにある蛍光灯にかざしてみても中身はよくわからない。栓の小さなコルクを外すと、中には星屑でも集めたかのような白銀のさらさらとした粉で満ちていた。
「では、報酬代りにいただくとしよう」
「有り難う御座います」
 シャルロットが頷くと、フードの男は軽く頭を下げる。そこでふとシャルロットは思い出した。
「そう言えば、きみは確か……占い師、と言っていたね?」
 思わず口が開く。特に占いには興味はないし、もちろん深い意味があっての言葉ではない。ないのだが、珍しく覚えていたことだし、それに自分を『占い師』と名乗る人物にも今まであったことがなかったので、なんとなしの興味本位でシャルロットは口を開いてしまった。男のことが気に入り、自分だけが話すのではなく相手のことも知りたいと思ったからでもある。
 問われ、男はそのとおりだと首を縦に振る。
「そうでした! 私としたことがすっかりと忘れておりました。これも何かの御縁です。よろしければ、是非とも私にシャルロット=フォームスン殿のことを占わせていただけないでしょうか? 最近に気になったこととか、何か御座いませんか?」
 言われ、シャルロットは少し困惑してしまう。自分から言っておいてなんだが、これ以上無償でしてもらうのも何故か申し訳なかった。かと言ってお金は先ほどの買い物で使い切り、完全に無一文だったためお金も払えない。
 それを察したのか、黒マントの男は「お金は必要ありませんので」と付け加えた。
「だが……」
 とはいっても流石のシャルロットも悩む。してもらってばかりでは、あまりに不平等だ。だが、黒マントの男は「私がやりたいだけですので」とあまりに熱心なので、逆にこれを無碍にするのも悪いと思い納得することにした。
「では、占ってみてくれたまえ」
 そう言うと、フードを目もと深くまで被った男は「では」とシャルロットの顔をまじまじと見据えた。
「わかりましたぞ、シャルロット=フォームスン殿!」
「ふむ。では、話してみたまえ」
 男はにやりと薄ら笑いを浮かべると、シャルロットの促しにしたがい口を開いた。
「今日はシャルロット=フォームスン殿にとって、特別な一日になるでしょう。これより、あなた様にはこれまでにないほどの大きな変化が待ち受けております。……そして、あなた様の背後に大きな閃光と炎が見えます。ラッキーカラーは黄金。そうそう、キーワードはアヤメです」
「『これまでにないほどの変化』とはつまり、なんなのかね?」
「さあ、それは私にはわかりかねます」
 フードの男もシャルロットと同様首を傾げる。その仕草ひとつひとつに胡散臭さが滲んでしまうのは、いかんせん占い師の定めなのだろうか。
 シャルロットは少し男の言った意味を考えてみた。男は言った。今日は特別な一日になると。これから、何かが起こるのだと。
 そうか。シャルロットはひとり頷く。これから、このシャルロット=フォームスンでなければ解決できない大事件が起こるということだな。そして、今日なんとはなくこうして外へ足を運んだのは、この話を聞くためだったのか。
 そうひとりシャルロットは当たり前のように納得し、頷く。これは大事件になるという名探偵の勘が働いているのだから、まず間違いない。
「そうか。私のほうこそ非常に興味深い話を聞いた。礼を言おう」
 あくまで尊大に、そして優雅に男に礼を述べる。
「いえいえ。私のほうこそかの有名なシャルロット=フォームスン殿を占うことができ、大変光栄に御座います」
「そうだな。存分に自慢するがいい」
「是非、そうさせて頂きます。ふふふ」
「そうしたまえ。はっはっはっ」
 外からは雨音。少し雨のせいで肌寒くなってきた中、シャルロットは先ほど盛大に雨を被ったことも忘れ、黒マントの男と二人、雨宿りに選んだ今はすでに営業をしていない店のテントの前でしばしあやしく笑い合っていた。
 ふふふ。
 はっはっはっ。
 ふふふふ。
 はっはっはっはっ。
 非常に不気味かつ怪しい光景だ。男二人が互いに意味深に笑い合っているというこの光景は。はたして、この光景を見たエリスンはどのような反応をするのだろう。きっとその綺麗な眉を顰め、思いっきり冷たい目線を彼らに与えるに違いない。そんな光景が容易に想像できてしまう。だが、この場にエリスンの姿はいない。故に、この状況に違和感を感じ、突っ込む人間はひとりとしていなかった。男二人の笑い声は相変わらずあやしくあたりに響く。
 ふふふふふふ。
 はっはっはっはっはっはっ。
 互いに笑いを止めるタイミングを脱しており、なおかつここで先に自分がやめたら何かに負けえた気がしてやめられなくなっていた。まことにつまらない意地の張り合いだ。
 と、いつまでの続くかと思われた笑いあいだが、突然の来訪者によりやんだ。それもほぼ二人同時に。
「雨、ようやく止みましたね」
「ふむ」
 突然の来訪者とは、今まで土砂降りの中厚い雨雲に阻まれ姿を隠していた太陽の光だった。今まで突然我が身を覆い隠し、自分の代わりに我が物顔で地面を濡らしていた雨雲が通り過ぎたため、その鬱憤を晴らさんがためのように、きらりと太陽は大地を照らし出す。しばし見ない間に、太陽は先ほどよりも眩しく見えた。
「さて、雨も上がったことですし、そろそろわたくしめは失礼させて頂きます」
 不意に、フードを目もと深くまで被り、全身をくたびれた黒いマントで覆ったその男はシャルロットに言った。
 そして、何の前触れもなくふらりと路上へ躍り出た。
「失礼します、シャルロット=フォームスン殿。この雨宿りのひと時、しがいないいち占い師である私にとって、実に有意義な時間でした。今後のあなた様のますますのご活躍をお祈りしつつ。では、いずれ、また、どこかで」
 振り向きざまに綺麗な一礼。この一見小汚い風貌とは似ても似つかぬ優雅さだ。何かしらの気品も感じなくもない。
 フードを目もと深くまで被った男は、それだけ言うとシャルロットの返答も待たず踵を返し、どこへともなく歩き去ろうとした。
「待ちたまえ」
 それをシャルロットは止める。男が、何事かと後ろを振り返ると、シャルロットは自身の手荷物紙袋の中身をあさっていた。
「どうかなされましたか、シャルロットーフォームスン殿?」
 くたびれた黒マントの男はそうシャルロットに尋ねる。
 と、ちょうどお目当てのものが見つかったのか、球体の物をシャルロットは男へと放った。すこし慌てつつも、黒マントの男はその拳大程の球体を両手で受け取る。
「ささやかだが、私を占ってくれたお礼だ」
 それは、赤い実に見事なリンゴだった。リンゴ特有の甘美な香りがほのかに鼻腔をくすぐる。思わず、喉を鳴らすほど美味そうだ。
 男はそれをしばし呆然と手に収めていた。だが、はっとしたようにくすりと笑うと、もう一度シャルロットへ一礼した。それにシャルロットは満足そうに頷く。
 突如、人の往来の途絶えていたそのロンドド郊外の通りに人の喧騒が戻った。
 ぼんやりしていたのだろうか。いつの間にこんなにも人がいたのか、まったく気がつかなかった。今まで同じように雨宿りしていたであろう人々が舞い戻り、大袈裟だが町が息を吹き返したようだ。
 そんな中、男はシャルロットに背を向けた。
「――――赤いリボン」
 不意に、男の声が、シャルロットの耳に届いた。
「赤いリボンにご注意くださいませ」
 下手をすれば聞き間違いだったと、耳を疑うような柳を揺らす風の声で男はそう告げると、ふらりと道行く人々の往来と喧噪の中に呑まれた。
 フードを目もと深くまで被り、全身をどこぞの魔法使いのようなくたびれた黒いマントで覆う男は、しかしそんなあからさまに目立つ服装をしているにも関わらずあっさりと人波に消え失せてしまった。
 あれは、はたして夢だったのだろうか。
 急に現実から離れたそれにシャルロットの脳裏にささやかな疑問が浮かぶ。だが、その手に持つ小さな小瓶が、男の存在を現実のものだったのと証明していた。
 男の最後の一言が妙に頭の中で響いていた。
 ――――赤いリボンにご注意くださいませ……
 注意、というよりは一種の警告めいたものを感じなくもない。が、だからと言って、何をどうすればいいのかさっぱりシャルロットにはわからなかった。
 エリスンパイの材料の入った紙袋を両手で抱え、シャルロットもまた人々の喧噪へと足を踏み出す。当たり前のように、ただ自身の構える探偵事務所へ。あのゴージャスな助手の待つ探偵事務所へ。
 が、数歩ののちシャルロットは立ち止まってしまう。そして、先ほどまで自分と魔法使いのような男とが雨宿りしていた場所を見た。自分達がいたあたりの地面、人々の行きかう道、最後に自分の足元を見た。
 そこに先ほどの雨の痕跡はなく、いつの間にか服もいつものように乾いていた。

 ――――まるで、雨など最初からなかったかのように……



◇◇◇◇◇

とりあえず、これにて前編は一応終了です。

我ながら「なげぇな、おい」と思ってます。うん、無駄になげぇ。

ちなみに、タイトルはまだ悩んでいるので、ひょっとしたら変えてしまうかも(おい

とりあえず、光太朗さま。前編はこんな感じになってしまいましたが、次からはもっとエリスンとか、色々なキャラたちと絡ませていこうと考えております。ご期待に沿うことができるのかと不安もありますが、とりあえず頑張って書きます。

早く、インフルエンザ直してくださいませーーーー><

できることなら、最近ずぅっと「インフルかかりたいな~~」とほざいている僕がもらい受けたいです><
だって、そうすれば合理的に学校休めるじゃないですか(おい

ともかく、次も頑張りますです。最後まで気長にお待ちいただけると大変ありがたいです。

ではでは、今回はこれにて。

無限の彼方へ、さあ行くぞーーーー!!(オイコラまたんかい

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うおお!
2009年02月12日木

た、大作だ……! おもしろいですね!! シャルロット映画版、みたいな感じで、もう序盤からわくわくっ>< 何かが始まりそうな気配がびっしばっし伝わってきます! 続きをっ、早く続きをぉぉ!!(急かしてるんじゃないんです、純粋に読みたいんです。
なんだか勝手に『うる星やつら』(大好きな漫画なんです)のニオイを嗅ぎ取って、嬉しくて仕方ありません。新キャラも残念なキャラっぽいとことか良すぎる…!! 

完結楽しみにしています! 全部できあがったら、数回に分けてシャル祭りでババーンとしちゃいますね>< わくわく、わくわく!!

>光太朗さま
2009年02月16日月

た、大作ッスか。しかも、シャルロット映画版みたいですか。僕は序盤からすでにひやっひやです(笑
でも、素直に嬉しいです! 早く次が完成できるように頑張ります! ビシッ(敬礼

実は僕『うる星やつら』は絵だけ知っていて、読んだことないんですよね。でも、あの大作の匂いがあるとは、ちょっと驚きつつ嬉しくもありますね。

あのご許可いただいて登場させた新キャラを気にいっていただいてありがとうございます。心配だったのですが、褒めていただきありがとうございます>< 残念キャラ万歳^^
でも、あの新キャラは出番があまり(ゴニョゴニョ そして実はあともうひt(強制終了

まあ、新キャラには少々ご期待ください。ちょっとしたくせ者にしようかと思っております。

返事、また企画の方もお待たせしてしまうことになり本当に申し訳なく思っております。すみません。
もう、完結したら「ドドドーッ」と出しちゃってくださいませ。御期待に添えるものを「バババーン」と書けるようにしたいと思います(なんじゃそりゃ

それでは、コメントありがとうございました><


追伸:なぜこんな時間にコメレスかと言いますと、実は試験勉強の合間やゲームの合間だったり(笑 はよ寝ろ、て話ですよね。でも、もうこの時間なので敢えて徹夜します^^

ではでは。

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