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鳥籠の空模様

『同じ空は一つとしてなく、同じ空は二度と眺めることは叶わない』……いつか、どこかで、誰かが僕にそう教えてくれた。毎日、一秒ごとに変わりゆくこの空模様のように、僕も変わりゆく。僕は、いつか、本当の空と向き合えるようになりたい…… そんな僕の空模様を映しつつ、『小説家になろう』という大手サイトにて小説を書かせていただいている灯月公夜の日々の空模様をここに記していきます……
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2009/04/30
00:12
光太朗さまに捧ぐ! 「シャルロット=フォームスン物語」 SS 前編(2)


光太朗さま、おまたせしましたーー><

とりあえず、前編(2)が出来上がりました! むちゃくちゃ遅くて本当に申し訳ありません!!

という訳で、さっそく続きにて、掲載させていただきます!


(知らない方へ軽くご説明)

「シャルロット=フォームスン物語」とは、なろうにて掲載中の光太朗さまの作品でございます。
現在、「続々 シャルロット=フォームスン物語」を執筆なされている最中です。
ご存じなかったかたは是非とも読んでみて下さい。
非常に色々な意味で楽しい名探偵と、その助手と、白いモコモコと、そのピンクのフィアンセが織りなすコメディです。
ちなみに、僕はこの話が大好きです><
あのゆるゆるとした感じがなんとも堪りません><

これより記すは、その「シャルロット=フォームスン物語」のSSです。ファンフィクションです。本来なら『シャル祭り』の時に提出するはずだった、本当に申し訳ないほどに送れて書いている作品です。しかも、まだ終わっていないというorz

ご存じなかった方は、まずは是非ともなろうにて原作をどうぞ!

その後、僕のSSを「読んでやってもいいよ」というお心の広い方で、まだ前編(1)をご覧になってない方は、先に前編(1)からご覧になってください。なお、今だタイトルは(仮)がとれません……(ごめんなさい

それでは、前置きはこれにて――。




☆★☆★☆★☆★☆



前編(2)「響く快音」




 その日のもうすぐ昼時を迎える、そんな時間帯。エリスン=ジョッシュは部屋の端から端へと行ったり来たりをひたすらに繰り返していた。いったいもう何往復目なのだろうか。思い出すのでさえ酷く億劫だったし、第一そんな細かなことに思考を巡らせておく暇がなかった。
 その一言は、いつもと同じ、何一つ大した変わらない朝食時に唐突に告げられた。
「そうだ、エリスン君。今日の昼は久々にエリスンパイを焼いてはくれないかね?」
「残念ね、シャルロット。あいにく材料はすべて切らしてしまっていて、エリスンパイは作れそうにないわ」
 いつもと大して変わらない、脈絡も何もない提案。それにいつものようにエリスンはあからさまに棘を含ませ言葉を返す。
「ふむ」
 エリスンの冷たい言葉に気に障った様子もなく、いつものように偉そうに頷くシャルロット。
 そして、ついに賽は投げられる。
「よし、決めたぞ、エリスン君。私はもう少ししたら家を出て、エリスンパイの材料でも購入してくるとしよう」
 思わず思考停止。世界が動きを止めた気がした。当然のごとく、理解しきれていない自分がいることを自覚せずにはいられない。いつもと同じような朝の風景がガラガラと音をたてて崩れていく錯覚にとらわれる。
 先ほど自分が聞いた言葉は何かの聞き間違いだったのだろう。確かめるようにおずおずとエリスンは口を開く。
「ごめんなさい、シャルロット。あたしったら、ぼー、としていたみたいで、よく聞き取れなかったの。もう一回さっき同じことを言ってくれないかしら?」
「おや? 珍しいね、エリスン君。ぼーとしていたとは、まだ目が覚めていないのかな? 私はもう少ししたらエリスンパイを買いに市場へ行くと言ったのだよ。そう、俗にいう"おつかい"というやつだ」
 専用のソファーに悠々と腰掛け、晴れやかな微笑みとともにそう再び告げたシャルロット。
 聞き間違いではなかったようだ。エリスンは、ごくりと息をのむ。
「……どうしたの……いったい?」
 おずおずといった感じでエリスンはシャルロットに尋ねる。それに変わらず、殺意が湧くほどに爽やかにシャルロットは答える。
「なに、たまには運動もいいかと思ったのだよ。今日は天気もいいし、窓から入り込風も実に爽やかで心地よい。絶好の散歩日和だとは思わないかね? こんな日に散歩とは、さぞかし気持がよいのだろう。だから、そのついに、だよ」
 エリスンはまるで硬い鈍器で殴られたのかのような錯覚に、一瞬激しい眩暈を覚える。
 信じられない。あのシャルロットが、しかも自分から……?
「ねぇ……シャルロット。ひょっとして……」
「なにかね?」
「また熱でもあるんじゃないの?」
「はっはっはっ、天才は風邪なんて引かないのだよ」
 いつものようにシャルロットは笑う。
 エリスンはこの現実をまだ受け入れずに、ただ目を白黒とさせていた。そういえば昨日購入した『週刊ゴージャス』がまだ読みかけだったわね、と現実逃避。
 それからほとんど時間も空けず「それでは行ってくるとしよう。エリスン君、必要な材料を明記したメモか何かを準備してくれないかね」といつものように無駄に偉そうにふんぞり返るシャルロットに対して、ただふらふらとぼやけた頭でエリスンパイの材料を明記したメモを手渡していた。もちろん、金額は寸分の狂いもなく、エリスンパイの材料費のみを渡した。今更ながら、あの状態でよくそこまでできたなと、あの時の自分自身を褒めてやりたい――。
「いえ、そんなことはどうでもいいのよ。問題は、あのシャルロットが自分から買い物へ行くと言い出したことなのよ。これはどういうことなの? 一体全体何? これって、ひょっとして誰かの陰謀? それともこれから怪現象でも起きるっていうの? 空から槍が降ってくるとか、魚が降ってくるとか、世紀の大魔王が突然やってくるとか、シャルロットの脳内が現実の世界に顕現しちゃうとか、それからそれから――」
 歩き回りながら独り言がぶつぶつと漏れ出す。本気で誰かの陰謀なのではないかと訝しみだし、それからその他もろもろの怪現象が本当に起こるのではないかと疑いだし、それらの解決はどうしようかと本当の本気で冗談なく考え始めたところで、エリスンは足をようやく止めた。それから視線を自らが集めに集めた『ゴージャス』な品物を入れてある棚久の方へ送る。その中の、『週刊ゴージャス』を保管している本棚へとさらに視線を彷徨わせる。あそこにはなんだかんだとまだ全部読み切れていない、昨日購入した最新刊がある。
「さて、暇だし続きでも読もうかしたら」
 ぽつりと誰にともなく呟く。これぞまさに、ザ・現実逃避。先ほどまでのことは、綺麗さっぱり微塵も余すことなく忘却の彼方へと追いやる。本棚の方へ足を向け、その近くにある窓を開ける。うん、今日はなんていい天気、と爽やかな風を一身に感じて空の彼方を見やる。窓から吹き込む風が、そよそよととても心地よい。風に揺られ、カーテンもゆらゆらと揺れだす。シャルロットの言葉ではないが、今日は本当に天気もよく、絶好の散歩日和といってもまるっきり差支えはなかった。
 そんな爽やかな風や太陽の陽気をひとしきり味わうと、エリスンは『週刊ゴージャス』の最新号を手に、近くから小さな机と椅子を持ち出し、その窓際にゆったりと腰かけた。今日の涼やかな風や、その風を受けさらさらと揺れているカーテン、それからこの陽気から離れての読書は、なんとなくもったいない気がしたのだ。
 エリスンは、雑誌を開き、まだ読んでいなかった箇所を黙読し始める。隣で揺れるカーテンや、時折外からこぼれる他の人々の生活の音が聞こえてきたが、しかしそれですらとても心地よかった。その状態を味わいながら、しばし比喩ではなく緩やかに時が流れるのを感じていた。
 そんな空気の中、突如目に入った項目でエリスンのページを繰る手がぴくりと止まった。
『はっぴねす占い~ドキドキ編~』
 現在人気上昇中の、非常によく当たると数多くの女性から支持を得ているコーナーだ。占いの内容は、恋愛はもちろん、日々の運気の持っていき方や経済面、はたまた浮気に関することや、にっくき恋敵をいかに蹴落とすかの方法等、あらゆる分野を網羅していた。
 エリスンは、自分の、今日の占いの結果を読み、目を大きく見開く。


『やっほー、ようこそいっしゃいませませ、悩める乙女(こねこ)ちゃんたち。あたしは、謎の美少女占い師、ウナラナイ・ヨクアタ~ル。今日も元気にお金をがっぽり稼いで、あそこの馬鹿な女を完膚なきまでに叩きのめして蹴落として踏みつけてチリと化して、意中の相手をゲットしましょう!
 さてさてさて。今日のあなたの運勢は…………わーお! これはすごい! いっつわんだふぉ~! ななななんな~んと、今日はすごいですよ。何がすごいってもう、本当にすごいわよ。こんなにすごい日なんて、一生に何度もない、ってくらいすごい日よ。特にあなたの身近な彼の変化が凄まじいわ。今日は普段とは全く違う身近な彼にドキドキされっぱなしになりそうよ。たとえ好きじゃなくても、普段馬鹿でアホでどうしようもなく愚図なミジンコでも、そんなことはまるっきり関係なし。あなたは今日、あなたのとても身近にいる彼にいろいろな意味でドキドキされっぱなしになるわよ! そう、具体的にはあんなことやあぁんなことにもなっちゃうかもね! キャー、想像してみて! うふふであははでぐへへな時間を。今日は最高の日になりそうよ! ……あらやだ、あたしったら、よだれが出ちゃった。もう、今日はそれくらいすごいのよ。何がすごいって、もう――――いやん! 意中の彼のそんなドキドキを味わったら、迷わずアタックしちゃいなさい。恋の女神はあたしたちの味方よ。勝利を我らの手に! エクスカリバァァァァアアアア!!
 あ、でもくれぐれも気をつけて。意中の相手だったら容赦なく食べちゃう行きおいで突進してもいいけれど、馬鹿でアホでどうしようもなく愚図なミジンコのせいで、あなたがドキドキしちゃった場合は本当に気をつけなさい。はっきり言って、それは"気の迷い"よ。いいえ、それどころか、ミジンコに毒を盛られた可能性もあるわ。ちょっとでも、ドキドキしちゃったら、即吐き出しちゃいなさい。それからぶっとばすのよ。具体的にはハンマーか、フライパンがいいわね。いい? 絶対に絶対、約束だからねっ! 肝によ~く命じておきなさい。
 最後にいつのもラッキーアイテムを紹介するわ。それはズバリ『アヤメ』よ! ――――え、それをどうしろって? そんなもの自分で考えなさいよ! 占いばっか当てにしてないで、まずは自分で工夫して磨きなさい。わかった? 以上。それじゃ、恋する乙女たちに栄光あれ! あでゅ~。ばいばいきーん』


 なんとなく、エリスンは雑誌を閉じて遠い目を外の青空へ向ける。ああ、確かに奇しくも百八十度くらい別の方向で今日はドキドキしてしまった。一生の不覚だ。
「ふぅ」
 このどこに持っていいのか分からない、なんとも微妙な心情を窓の外の陽気に向かって大きく吐き出す。けれど、当然のように陽気は何も答えてはくれない。
 今日は一体これから何があるのかしら?
 ずきずきと痛みだしたこめかみを押さえつつ、あとでシャルロットをぶっ飛ばさなくてはならないのだろうかと、本気で悩みだす刹那。探偵事務所の来客を告げるベルが震えた。
 エリスンはそれでいったん思考を止め、開いた窓際の近くへ椅子と一緒に引き寄せた机の上に雑誌を置き、急いで玄関へと向かう。
「ヒュイ!」
「こんにちはエリスンさん。あ、これ先ほど焼けたばかりのケーキです」
 訪れたのは、今日も今日とて白とピンクの顔なじみ。ようやくいつものと同じ景色に、知らずエリスンは安堵の表情を浮かべた。


 ロンドド郊外にある茶色い、モダンな造りの三階建ての建物。茶色と白色のレンガで組み合わされできたその壁には、ところどころにツタが絡みついていた。各階ごとには、それぞれ三つの窓が取り付けられており、一階へ行かずとも、その扉の右側の階段から二階、三階へと行ける造りになっていた。そして、一階には人の気配というのが皆無であるのだが、その階段を上って行った先、二階の扉には堂々とした看板が掲げられている。
 フォームスン探偵事務所――――そう看板が掲げられた二階に、シャルロット=フォームスンの構える探偵事務所がある。
 長き旅路(かいもの)の末、シャルロットはようやく事務所の扉の前まで帰ってきた。あとはこの扉を開くだけ。そうすればこの長き非常に困難かつ長距離にも及んだ旅が終着を迎えるのだ。……終わるのだが、シャルロットはひとり扉の前で立ち往生していた。理由は簡単なことで、紙袋で両手を塞がれている今、扉を開けることはおろか、呼び鈴すら鳴らせないでいたのだ。
 さてどうするか。シャルロットがささやかなこの状況を打破する方法をない知恵を絞り考えていると、扉の向こうから少し騒々しい話し声が聞こえてきた。
「ああ、どうしましょう、キャサリンさん! あたし、ひょっとしてどこか頭がおかしくなったちゃったのかしら」
「エリスンさん、まずは落ち着きましょう。それからでも全然遅くないですよ。お気を確かに!」
「ああっ、でも、でも、そんなのあり得ないのよ! あのグータラで、無駄にエラそうで、おそろしくバカで、もうどうしようもないバカで、救いようのないバカの、もうっ、もー本当に大バカとしか言えないあの万年運動不足のシャルロットが、椅子から立ち上がることすらしぶしぶなあのシャルロットが、自分から自発的に、しかも買い物へ行って来るといったのよ! 絶対におかしいわ! これは何かの間違いよ誰かの酷い陰謀よ天変地異の訪れよ世界の破滅の予兆よ!」
「ヒュイヒュイヒュイ、ヒュイー、ヒュヒュゥイ!」
「ええ、その通りです。ジョニーの言う通りです。エリスンさん、どうぞお気を確かに! ご自分を見失ってはいけませんよ!」
 少しではなく、色々な意味で騒々しかった。
 中から聞こえてきたのは、シャルロットのよく知る二人の女性と一匹の声。シャルロットはひとり、ふむ、と頷く。
「ええ、そうね、そうよねキャサリンさん。あたしがしっかりしてないとダメよね。そうよ、しっかりなさい、エリスン=ジョッシュ。あなたが一番しっかりしてなくちゃダメじゃない」
「そうですそうです。とりあえず今はシャルロットさんのことなんて忘れるのが一番です」
「ヒュゥヒュゥヒュゥー、ヒュィイ!」
「そうだったわね、ジョニー。ほら、エリスンさん。ケーキを焼いてきましたから、それでも食べて元気出しましょう」
 その時、シャルロットのお腹が、くぅ、と鳴いた。そういえば、お昼をまだ食べてなかったと思い出す。
「ええ、そうさせていただくとするわ、キャサリンさん。色々とありがとう」
「いえいえこのぐらいどってことないですよ。――――ささ、どうぞ食べてください」
 続いて部屋から、エリスンの小さく歓喜する声が聞こえてきた。
 シャルロットのお腹がさらに訴えるように鳴った。もともとの運動不足に加えて、先ほどまで店からこの事務所まで重い荷物を持って、しかも歩いて帰ってきたのだ。当然、行きも忘れてはならない。行きは気分がよかったので、なんとなく徒歩だったのだ。エリスンにも再三なぜか言われていたことでもある。あの極限状態でもそれだけ言えたエリスンは、いろんな意味ですごいのかもしれない。
 ともあれ、シャルロットは今までしていなかった久々の運動を終えたばかりであることに変わりはない。よって、空腹もより一層激烈なものになっていt。また、お腹が鳴く。
 さてどうしたものか。このままだと、エリスンたちにせっかくのキャサリンのケーキの大半を食べてしまいかねない。甘いものが関わると、女性は色々な意味で強いと、エリスンとともに長いこといるシャルロットは熟知しているつもりだった。何としても、早く中に入らなければならない。なぜならそこに、キャサリンのケーキがあるのだから!
 シャルロットは考えに考えた。人間、お腹がかなり空けば、そこに食べ物が分かった時点で必死になれるものなのだ。

 ――シャルロット事務所入室大作戦。任務――この檻を解き放ち、囚われのケーキを救い出せ!

 シャルロットの作戦、その一。
「ふむ」
 それは、至って単純明快だった。シャルロットは、思いついたそれを早速実行に移す。
 内容は実にシンプルなものだ。具体的には、ようは何もしないのだ。
 そもそも、何もそこまで焦る必要はない。こうして扉の前に立っていれば、人の気配を感じて、エリスンかキャサリンかのどちらかが開けてくれるに違いないのだ。
「流石、キャサリンさん! とてもおいしいわ!」
「ヒュイ! ヒュゥヒュイヒュイー!」
「まあ、ありがとうございます。ジョニーもありがとう。まだまだありますからどんどん食べて気力をつけて下さい」
「…………」
 ……エリスン、キャサリン、ジョニーに共に気づく気配なし。何より、お腹とケーキの存命にかかっていたのをすっかり忘れていた。根本的なミスだ。
 シャルロットの作戦その一、失敗!

「ふむ」
 だが、シャルロットはあきらめない。顎に手をやり次を考える。
 そうか。閃いた。エリスンたちの声が聞こえたということは、こちらの声も聞こえるということではないか。

 シャルロットの作戦その二。
「はっはっはっはっ!」
 笑ってみた。いつもより大きめに笑ってみた。
 …………効果なし。扉の向こうからは相変わらずの談笑が聞こえてくる。
 シャルロットは、ふむ、と頷く。それから、今度は先ほどよりも大きく息を吸い込み――全力で笑ってみた。建物の目の前を通り過ぎて行く人々が、笑うシャルロットを確認した後、ある者は視線を逸らし早歩きとなり、またある者は来た道を逆走しだす中、高らかに笑ってみた。
「ハッハッハッハッ!」
「本当に舌がとろけそうなほどおいしいわ!」
「ヒュイ!」
「ね!」
「まあ、二人とそんな。次も頑張って作りますね」
「アハッハッハッハッハッ!」
 しかし、ケーキに夢中になっている部屋の住人たちは気づく気配なし。あの必死の高笑いも無駄な徒労終わってしまった。シャルロットのお腹がさらに悲痛な声で鳴き出す。
 シャルロットの作戦その二、失敗!

 ここに来て、シャルロットは軽く焦燥に駆られる。
 中からはいかにも楽しそうな談笑。舌も、そしてお腹の中もさぞかし楽しいことになっているのだろう。
 なのに。だというのに、こちらはお腹が悲痛な大合唱を奏でており、ちっとも楽しくない。くぅ、なんて可愛らしい鳴き声を通り越して、ごうごうと怪物がひっきりなしに吠えている。
「ふむ」
 シャルロットはさらに考えに考えた。これ以上ない、というほどに考えた。
 名探偵なる者、いついかなるときも、その状況を打破しなくてはならない。たとえ、犯人に凶器をちらつかされ脅された時も、今にも爆発しそうな爆弾の解除をしようとする時も、縄で手足を縛られ身動きが取れない状況に陥った時も、ただケーキが食べたいだけの時も。
 常に頭を働かせ、思考を巡らせ、使わなければならない。
 ――頭を使う? ああ、そうか。その手があったか。
 シャルロットの空腹は、もう臨界点突破寸前だった。

 シャルロットの作戦その三。
 そのお腹の最終警告が引き金だった。
「あっはっはっはっはっハッハッハッハッハッハッハ――」
 ゴン! ゴン! ゴン! ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!
 人間、お腹の空き具合が、食料を目の前にして極限まで達したらなんだってするのだ。それは、シャルロットも例外ではなく――むしろ、そんなシャルロットだったからこそなのかもしれないが、彼は高笑いをしながら、文字通り頭を使って扉をノックしだした。
 ゴンゴンゴンゴンゴン。
 さすがに気がついたのか、やがて扉は開いた。それに思わずシャルロットは顔を満足そうにほころばせた。
 が、次の瞬間。
「とりゃーっ!」
 傍目にはなんとも可愛らしい掛声とは裏腹に、強烈な衝撃が頭を襲う。
 スコーン! という何とも小気味よい音を余韻に、シャルロットの視界は暗転した。
 倒れ行く彼の目の前、開け放たれた扉の前にはフライパンを握りしめ驚いた表情のエリスンと、彼女の後ろに控えていたキャサリンの姿があった。
 ……シャルロットの作戦その三――成功?


 至福の時をぶち壊したのは、妙に寛大な高笑いと、重たく、しかし軽い硬い物が扉る音だった。その笑い声どこかいつも聞いている声のようにも聞こえなくないが、しかし、扉に阻まれ曇り、さらに余計な「ゴン!」という音と重なりわからない。だけれども、一つだけ確かなことがあった。それは、この幸せだったお茶を台無しにしたということ。
 その騒がしい音を聞きつつ、エリスン、キャサリン、ジョニーは互いに見つめあい、頷き合った。
『不審者だっ!』
 三人の心が一つになった瞬間だった。
 それを確認すると、すぐさまエリスンは台所へと駆け出す。そして、持ってきたのは少し大きめなステンレス製のフライパン。これで扉の前にいる不審者に一撃くれてやるつもりなのだ。
 あたしが住む事務所に変なことをするなんて、断じて許さない!
 この見かけのゴージャスな女性は、中身も見事にゴージャスだった。もちろん、その性格だけでなく、すぐ後ろで拳で語り合ってくれるキャサリンの存在が大きいからでもある。
 キャサリンが鳴り響く扉のドアノブを握り、キャサリンらに視線を送る。ジョニーを守るように立ちふさがっているキャサリンが、合図に頷き、その後ろでジョニーが体全体を倒して頷いている。
 すぅ、とエリスンは息を吸い込む。
 よし、今だ!
 エリスンはフライパンを振りかぶりつつ、扉を勢いよく開け放つ。
「とりゃーっ!」
 そして、その人物めがけて振り下ろす。その不審者の黄金に近い見慣れた髪が視界の端に映る。
「――っ!?」
 がしかし、ときすでに遅し。ほとんど手加減なく振り下ろされたフライパンが、紙袋を両手に持つシャルロットの頭を打つ。非常に軽そうな「スコーン!」というなんとも情けない音があたりに響く。
 エリスンは、自身が大きく息をのむ音を感じた。後ろから同じく息をのむキャサリンの声も聞こえる。ジョニーも「ヒュイ!」と驚きの声を上げつつ、届かないその両手で目を必死に覆うとしていた。
 殴られたことにより、後ろへ倒れるシャルロット。両手に持っていた紙袋の中身が、中から飛び出しあたりに散らばる。
 しばし、なんとも言い難い沈黙が訪れる。
「ちょっ、ちょっと、シャルロット大丈夫!?」
「シャルロットさん。死んじゃだめです!」
「ヒュィィィイイイ!」
 沈黙から立ち直ったエリスンらが、慌ててシャルロットのもとへ駆け寄り覗き込むと、彼は「きゅー」と音たてて目を回していた。
「どうしましょう……これ……」
 唖然と、フライパン片手にエリスンは誰になく呟く。どうしよう、と言いつつ、他のことで頭がいっぱいだった。
 そもそも、なぜシャルロットがこんなことを? いや、何かが起こったということは、まず最初にシャルロットを疑うべきだったということを失念していた。しかし、それを言うのならば、なぜ、シャルロットはそもそも買い物へ行ったのだというのだ? それこそ疑問すぎて、このバカなシャルロットの脳内を垣間見ないときっとわからないだろう。やはり、シャルロットが普段と違う行いをし出した場合は、何かが起こる前触れで、最新の注意を払わなくてはならないのだろうか……
 エリスンはいつも以上に混乱した頭を抱える。
 第一、まさか本当にフライパンで殴ってしまうなどと夢にも思っていなかったのだ。
「と、とりあえず、シャルロットさんを介抱しないと」
 そんなことを脳内で堂々巡りをしているエリスンのそばで、一番最初に現実に帰ってきたのはキャサリンだった。
「そ、そうよね」
 それにエリスンはかろうじて頷き返す。もう、色々な意味でショックでそれしかできなかったのだ。
「それじゃ、エリスンさんはジョニーと一緒に、そこに散らばっているシャルロットさんの買い物の中身を集めておいてください。私はシャルロットさんをソファーまでお連れしますので」
「ヒュイ!」
 頷き返したエリスンとは対照に、ジョニーが元気よく体全体を左上方向に傾けた。……左手を上げたんだとエリスンは無理やり解釈する。
 とりあえず、これで個々の仕事分担は出来上がった。
 キャサリンは、その華奢な体のどこにそんな力があるのか、シャルロットの身体をいともたやすくひょいと持ち上げると、さっそうとした足取りで部屋へと戻って行く。
 そんな姿を、ほけーと見つめつつ、心中でエリスンは「さすが」とつぶやいてしまった。キャサリンには悪いが、シャルロットなんかよりもよっぽど頼もしく感じてしまう。
「ヒュイ!」
 そんなことを考え、我ここにあらずだったエリスンは、肩に何者かが触れたことによりはっとする。見ると、それは白いモコモコふわふわしたもので、つまりジョニーだった。
「ヒュィ、ヒュヒュイヒュイ」
 なんと言っているのか、さっぱりとわからなかったが、ジョニーの大きくつぶらな瞳に自分が映るのをエリスンは見る。なんだか、少し気が楽になった気がする。
「そうね、ごめんなさい、ジョニーさん。早く集めてしまいましょう」
「ヒュイ!」
 エリスンは、そしてジョニーとともに、シャルロットが散っていた際に残した遺物を集め始めた。そのどれもが、自分がエリスンパイを作るための材料なのだが、今だにシャルロットがこれを購入してきたのだということを理解できないでいる自分がいた。シャルロットがこれを、と思うとどうも現実離れしすぎて、今一つピンとこない。
 ふと、エリスンの視界にジョニーの姿が映った。
 彼とて、かなり不思議且つ現実離れしていることを思い出す。そして、それと今ではほとんど違和感なく接している自分がいることに気づき、失礼ながらエリスンはそんなジョニーの存在に元気づけられた。
「ヒュゥ?」
 エリスンの視線に気がついたのか、ジョニーは首を――のつもりなのかもしれないのだけれども、実際は体全体を傾けて、そのつぶらな大きな瞳でエリスンを見つめてきた。
 それにエリスンは「なんでもありませんわ」とほほ笑み返し、少しキャサリンの気持ちがわかった気がしたが、すぐさま頭を横に振る。
「危ない、危ない……」
 何か大切なものを失いかけたような気がしつつ、先ほど自分が思ったことをきれいさっぱり忘れようともう一度頭を振り、シャルロットの遺物を集めることに専念した。


☆★☆★☆★☆★☆★☆



以上、しゅうりょーーう><

光太朗さま、いかがでしたでしょうか!

シャルロット達の雰囲気が壊れていないといいのですが;

楽しんでいただけたのならば、本望です。次もできる限り早く書ききれるように努力いたします><

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ああ楽しかった!
2009年05月01日金

楽しかったです、ありがとうございますー>< こ、これでまだ前編って、どんな大作ですか!(笑 最初に感じた大作の予感は間違ってなかった! 自分とこのシャル一話分より長くなりそう……すごいーー。続き、楽しみにしてます。
ゴンゴンするシャルが……! どこまで阿呆なのっ、とウケました。そして不審者認定。なんかみんな楽しそうで読んでる方もホクホク。素敵です。
ところどころ誤字みたいなのがあったりしましたし、いただいていくのは完結後にしますねー!!

>光太朗さま
2009年05月10日日

またまた返信が遅くなりました。すみません><

楽しんでいただけたならもう、本当にありがとうございましたです。できるだけ、早く、早くと思ってはいるのですけれど;
きっと大作に仕上げてみますーーーっ><
正直、シャルロットのあれはやりすぎたかな、と不安になっていました。ウケていただけていたのならば、ほっと胸をなでおろす思いです。

うあーーー、ところどころ誤字がありましたかっ!
す、すみません;
できうる限り推敲して、完成した暁にはまた「ドドドーッ!」と一気に乗っけます><

コメントありがとうございました!

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